当科の紹介

主任教授挨拶

麻酔学教室 講座代表教授/井上 莊一郎

麻酔科医に求められる「総合医としての力」

麻酔学講座は1972年に高橋敬蔵教授によって開講され、以後、講座代表は青木正教授、山中郁男教授、舘田武志教授に引き継がれ、発展してきました。2016年からは私が第5代目を拝命しております。

 

麻酔科医の仕事の基本は手術の麻酔ですが、かかわる領域は広く、奥が深いものです。

 

麻酔とは「生体を手術可能にする医療処置」です。手術は「治療目的に生体に切開などを加えること、侵襲を加えること」で、これに対して生体は様々に反応します。反応が生体に不利な場合や正常から大きく逸脱する場合、対処が必要ですが、そもそも、この侵襲に対する生体の反応を予測して小さく抑えることが大切です。そこで麻酔科医には、生体を手術可能な状態にしつつ、侵襲下の全身状態を安定させる管理が求められます。

 

そうすると、麻酔科医は侵襲からの守護者にみえるかもしれません。しかし、麻酔に用いる薬剤や処置も侵襲となり得ます。侵襲を受ける患者さんの状態や、手術術式は多岐にわたります。そこで麻酔科医は、術前の患者さんの健康状態を幅広く評価し、手術術式を把握し、麻酔法や投与する薬物の生体への影響を考慮して麻酔計画を立て、実施する必要があります。麻酔中の全身管理は、計画通り進行していれば安定していることが多いです。しかし、患者の状態が短時間で著しく変化することや、計画外、予想外のことも起きます。そのときには素早く病態を解釈して、治療の選択肢を挙げられる能力や正確な処置が必要です。

 

このようにしてみると、麻酔科医に求められるのは「総合医としての力」だと、私は思います。術前の患者さんの健康状態や術式の評価だけでも幅広い知識が必要です。麻酔を計画して実施するには、臨床医学以外に生理学や薬理学の知識、精度の高い医療処置が必要です。近年、手術の高度化、専門化に伴い、手術麻酔も小児麻酔、心臓麻酔、区域麻酔などに専門分化しつつあります。これはより良い医療を提供する上で意義あることです。しかし、その前提として「総合医としての力」こそ大切だと思います。

 

 

麻酔科医の関わる領域は、手術麻酔だけではありません。そこでの知識や技術を様々な方向へ向けることができます。術後管理や重症患者の治療に向け、様々な医療と融合することで集中治療に関わり、手術麻酔と急性痛治療を拡張させて術後鎮痛を発展させ、産科医療との融合によって無痛分娩にも関わる産科麻酔へと向かい、痛みの治療の知識と技術を慢性痛治療に向けてペインクリニック、緩和医療へと広がっています。

 

このように麻酔科医の関わる領域は、手術麻酔の専門化というタテの方向と、様々な領域と融合して拡張するヨコの方向の両方に広がっています。今後、時代の変化とともにこの広がりはさらに変化をみせることでしょう。別の新たな分野との融合があるかもしれません。そのようななかで、どこにも向かうことのできる、何にも対応できる麻酔科医になるためには、麻酔だけでなく様々な医療の知識を持った総合医、もっと言えば、医学以外の様々な知識や視点をも持った知識人であることが重要ではないかと考えています。

 

当院の麻酔科は、手術麻酔を中心にペインクリニック、緩和医療、人工呼吸器装着患者の管理などの診療に関わっています。これらの診療を通して、上記のようなより良い医師を育成し、日常の診療に反映させるとともに、調査・研究結果を発信し、社会に貢献していきたいと考えております。

教授プロフィール

  • 1992 年 東京慈恵会医科大学卒業

  • 1999 年 自治医科大学 医学研究科 博士課程修了

  • 2005 年 自治医科大学麻酔科学・集中治療医学講座 講師

  • 2007 年 自治科大学附属病院緩和ケア科(兼任)

  • 2008 年 自治医科大学麻酔科学・集中治療医学講座 講師

  • 2013 年 自治医科大学麻酔科学・集中治療医学講座 准教授

  • 2019 年 聖マリアンナ医科大学麻酔学 主任教授